働きながら家族の介護を担う「ビジネスケアラー」の増加は、企業にとって見過ごすことのできない経営課題になっています。
介護というと、「介護休業制度を整備すればよい」「従業員個人の家庭の問題」と考えられがちです。
しかし、仕事と介護の両立に悩む従業員が増えることで、心身の疲労や集中力の低下、欠勤・遅刻・早退、プレゼンティーイズム、さらには介護離職などにつながる可能性があります。
特に親の介護に直面しやすい40代・50代は、管理職や専門職など企業の中核を担っていることも少なくありません。
そのため、ビジネスケアラー対策は単なる福利厚生ではなく、従業員の健康を守る「健康経営」と、人材の価値を高め企業の持続的な成長につなげる「人的資本経営」の両面から考えることが重要です。
この記事では、ビジネスケアラーと健康経営・人的資本経営の関係、企業が抱えるリスク、具体的に取り組むべき対策について分かりやすく解説します。
目次
ビジネスケアラーとは?
ビジネスケアラーとは、仕事をしながら家族などの介護を担っている人を指します。
親の高齢化などに伴い、働きながら通院の付き添いや介護サービスの手配、日常生活の支援などを行っている従業員もいます。
介護は育児と異なり、いつ始まり、いつ終わるのかを予測することが難しいという特徴があります。
また、従業員自身が、
「まだ介護というほどではない」
「会社には家庭のことを言いたくない」
「周囲に迷惑をかけたくない」
と考え、会社へ相談しないケースもあります。
そのため企業側からは、仕事と介護の両立に悩んでいる従業員の存在が見えにくいという問題があります。
ビジネスケアラーと健康経営の関係
仕事と介護の両立は従業員の健康にも影響する
仕事をしながら介護を続けることで、従業員にはさまざまな負担がかかる可能性があります。
例えば、
- 睡眠時間の減少
- 疲労の蓄積
- 精神的なストレス
- 自分の時間の減少
- 通院や介護対応による時間的負担
- 介護費用などによる経済的不安
などです。
こうした状態が長期間続けば、従業員自身の健康状態にも影響する可能性があります。
健康経営というと、健康診断、生活習慣病対策、運動、食事、メンタルヘルスなどに注目しがちですが、従業員の健康に影響する生活上の問題にも目を向ける必要があります。
その一つが「家族の介護」です。
介護によるプレゼンティーイズムにも注意が必要
ビジネスケアラー対策では、「介護離職」だけに注目しないことが重要です。
会社を辞めていなくても、
「夜間の介護で睡眠不足になっている」
「仕事中も親のことが気になって集中できない」
「介護サービスや病院から頻繁に連絡が入る」
「介護費用について悩んでいる」
などの状態が続けば、仕事のパフォーマンスに影響する可能性があります。
出勤はしているものの、心身の不調などによって本来の能力を十分に発揮できない状態を「プレゼンティーイズム」といいます。
ビジネスケアラー対策では、
「辞めていないから問題ない」
ではなく、
「働き続けながら、本来の力を発揮できているか」
という視点を持つことが重要です。
ビジネスケアラーと人的資本経営の関係
人的資本経営では、人材を単なるコストではなく、企業価値を生み出す重要な資本として捉えます。
その人材が介護によって疲弊したり、働き続けられなくなったりすることは、企業にとって人的資本の損失につながる可能性があります。
40代・50代の中核人材が介護に直面する可能性
親の介護に直面する従業員の中には、40代・50代の管理職や専門職など、長年の経験やノウハウを持つ人材もいます。
こうした従業員が介護によって十分に働けなくなったり、離職したりすれば、
- 経験やノウハウの喪失
- 後任者の採用・育成
- 周囲の従業員への業務負担
- チームの生産性低下
- 将来の管理職候補の減少
など、組織全体に影響が広がる可能性があります。
ビジネスケアラー支援は、「介護をしている従業員を助ける」というだけではなく、企業の重要な人材が長く活躍できる環境をつくる人的資本への投資として考えることができます。
ビジネスケアラー対策を健康経営・人的資本経営につなげる
ビジネスケアラー対策では、介護休業制度を整えるだけでは十分ではありません。
企業として、従業員が介護に直面する前から、仕事と介護を両立できる環境をつくることが重要です。
大きく次の5つの視点から考えることができます。
| 取り組み | 主な目的 |
|---|---|
| 実態把握 | 潜在的なビジネスケアラーや従業員の不安を把握する |
| 介護リテラシー向上 | 介護が始まったとき適切に行動できるようにする |
| 相談体制の整備 | 問題が深刻になる前に相談できる環境をつくる |
| 仕事との両立支援 | 制度や働き方を活用して就業継続を支える |
| 効果の見える化 | 健康・生産性・離職などの変化を確認する |
① 従業員の介護状況を把握する
最初に必要なのは、従業員の実態を把握することです。
ただし、
「介護をしていますか?」
と聞くだけでは、十分に把握できない可能性があります。
本人が自分を「介護者」と認識していないケースもあるからです。
例えばアンケートでは、
- 親や家族の生活を定期的に支援しているか
- 通院への付き添いをしているか
- 家族の介護について不安があるか
- 今後数年間で介護が始まる可能性を感じているか
- 仕事との両立に不安があるか
なども確認すると、潜在的な課題を把握しやすくなります。
重要なのは人数を調べることだけではなく、従業員が何に困り、どのような支援を必要としているのかを把握することです。
② 管理職・従業員の介護リテラシーを高める
介護は始まってから学ぶのではなく、始まる前から知識を持っておくことが重要です。
従業員には、
- 介護が始まったときの相談先
- 介護保険制度の基本
- 要介護認定
- 介護サービス
- 会社の両立支援制度
- 仕事を辞める前に確認すべきこと
などを伝えておくことが有効です。
一方、管理職には、
- 部下から相談されたときの対応
- 避けたい声かけ
- 社内制度の基本
- 人事・相談窓口へのつなぎ方
などを理解してもらうことが重要です。
介護リテラシーを高めることは、介護が深刻になる前の早期相談につながります。
③ 相談しやすい環境をつくる
制度があっても、相談できなければ利用にはつながりません。
「介護について上司に話すと評価に影響するのではないか」
「どこまで家庭のことを話せばいいのか分からない」
と感じている従業員もいます。
そのため、
- 人事・総務への相談
- 社内相談窓口
- 外部相談窓口
- 専門家への相談
など、複数の相談方法を用意することも有効です。
従業員が「困ってから相談する」のではなく、「少し不安を感じた段階で相談できる環境」をつくることが重要です。
④ 制度と働き方を組み合わせる
仕事と介護を両立するためには、介護休業だけでなく、介護休暇や柔軟な働き方などを組み合わせて考えることが重要です。
さらに、介護サービスや家族との役割分担なども含め、
「従業員自身が介護をする」から「仕事を続けられる介護体制をつくる」
という考え方へ変えていく必要があります。
企業の役割は、従業員に介護そのものを任せることではなく、介護を抱えても働き続けられる環境をつくることです。
⑤ ビジネスケアラー対策の効果を見える化する
健康経営・人的資本経営として取り組むのであれば、施策を実施して終わりにしないことも重要です。
例えば、
- 介護研修の参加率
- 相談窓口の認知度
- 仕事と介護の両立に対する不安
- プレゼンティーイズム
- 欠勤・休職
- 介護離職
- 従業員エンゲージメント
などを継続的に確認する方法があります。
実態把握 → 施策実施 → 効果測定 → 改善
というサイクルを回すことで、ビジネスケアラー対策を一時的な福利厚生施策ではなく、健康経営・人的資本経営の取り組みとして発展させることができます。
ビジネスケアラー支援を「コスト」ではなく「人への投資」と考える
ビジネスケアラー支援には、研修や相談窓口など一定のコストがかかります。
しかし、介護によって中核人材が離職すれば、採用や育成にも新たなコストが必要になります。
また、離職しなくてもプレゼンティーイズムによる生産性低下が長期間続けば、企業への影響は小さくありません。
だからこそ、
介護離職してから対応するのではなく、介護が始まる前から支援する。
という考え方が重要です。
従業員が安心して働き続けられる環境をつくることは、従業員本人のためだけでなく、企業の持続的な成長にもつながります。
FAQ
Q1. ビジネスケアラー対策は健康経営に含まれますか?
ビジネスケアラーは、仕事と介護による時間的・精神的な負担から、睡眠不足や疲労、ストレスなどを抱える場合があります。そのため、従業員の心身の健康や生産性を考える健康経営の観点からも、仕事と介護の両立支援は重要なテーマの一つと考えられます。
Q2. ビジネスケアラー対策が人的資本経営につながるのはなぜですか?
介護に直面する従業員の中には、管理職や専門職など企業の中核を担う人材もいます。こうした人材が介護を理由に能力を発揮できなくなったり離職したりすることを防ぎ、長く活躍できる環境を整えることは、人的資本の維持・活用につながります。
Q3. 介護休業制度を整備していれば十分ではないのでしょうか?
制度を整備するだけでは十分とはいえません。従業員が制度を知り、相談でき、必要なときに利用できる環境が必要です。研修、相談窓口、管理職への教育、柔軟な働き方などを組み合わせることが重要です。
Q4. ビジネスケアラーが社内にどのくらいいるか分かりません。何から始めればよいですか?
従業員アンケートなどによる実態把握から始める方法があります。現在介護をしているかだけでなく、家族への支援状況や将来の介護への不安、仕事との両立について確認すると、潜在的な課題も把握しやすくなります。
Q5. ビジネスケアラー対策の効果はどのように確認すればよいですか?
研修参加率や相談窓口の認知度だけでなく、仕事と介護の両立への不安、プレゼンティーイズム、欠勤・休職、介護離職、従業員エンゲージメントなどを継続的に確認する方法があります。自社の課題に合わせて指標を設定することが重要です。
まとめ
ビジネスケアラー対策は、介護をしている従業員だけを対象とした福利厚生ではありません。
仕事と介護の両立による心身の負担やプレゼンティーイズムに対応することは健康経営につながり、中核人材の離職を防ぎ、従業員が長く能力を発揮できる環境をつくることは人的資本経営につながります。
重要なのは、
実態を把握する
介護リテラシーを高める
早期に相談できる環境をつくる
仕事と介護を両立できる仕組みを整える
取り組みの効果を見える化する
という流れで継続的に取り組むことです。
ビジネスケアラー対策を「介護離職を防ぐための制度」だけで終わらせず、従業員の健康と企業の人的資本を守る経営課題として取り組むことが、これからの企業には重要です。
ビジネスケアラー対策を「健康経営・人的資本経営」につなげませんか?
「介護離職対策はしているが、従業員の実態を把握できていない」
「制度はあるが、従業員に十分利用されていない」
「介護による生産性低下がどの程度あるのか分からない」
「健康経営や人的資本経営の取り組みとして、何から始めればよいか分からない」
このような課題を抱えている企業も少なくありません。
株式会社ハンドレッドライフでは、
従業員の実態把握・介護リテラシー向上・管理職研修・相談支援・仕事と介護の両立支援・効果の見える化
などを通じて、企業のビジネスケアラー対策を支援しています。
制度を整えるだけではなく、従業員の健康を守り、中核人材が働き続けられる環境をつくる。
健康経営・人的資本経営の視点からビジネスケアラー対策を進めたい企業様は、お気軽にご相談ください。
