法改正のお知らせを全社員に送っても、介護に関する社内周知が完了するとは限りません。
「全社員への案内」と「対象者への法定の対応」を分け、相談が人事・総務につながる仕組みまで整えることが重要です。
この記事では、中小企業が「誰に・いつ・何を・どう伝えるか」を決める手順と、周知前後のチェックリストを紹介します。
本稿は、2025年4月1日施行の介護分野の改正事項のうち、社内周知と相談対応に関わる内容を中心に扱います。介護休業の取得日数などの制度詳細ではなく、社内での実施方法に絞って解説します。
※公開・運用前には、厚生労働省の最新の改正資料、施行規則、Q&A等で、義務の内容・対象者・実施時期・方法を確認してください。本稿だけで、育児・介護休業法の改正対応全体を確認できるものではありません。
目次
社内周知では「3つの法令対応」を分けて管理する
介護分野の周知を設計するときは、次の3つを区別します。いずれも2025年4月1日から義務化された対応ですが、対象者と実施場面が異なります。
| 法令上の対応 | 対象・実施場面 | 準備するもの |
|---|---|---|
| 個別周知・意向確認 | 家族の介護に直面した旨を申し出た従業員 | 個別案内の資料、利用意向の確認方法、担当者への引継ぎ手順 |
| 介護に直面する前の情報提供 | 40歳に達する従業員 | 対象者一覧、実施時期、情報提供資料 |
| 雇用環境の整備 | 介護休業・介護両立支援制度等を利用しやすい職場づくり | 実施する措置、担当者、実施計画 |
個別周知や40歳時点の情報提供では、介護休業・介護両立支援制度等、申出先、介護休業給付金に関する事項を伝えます。行政の様式を参考に、法定の必要事項と自社の手続きがそろった資料を用意しましょう。
40歳時点の情報提供は、次のいずれかの期間に行います。
- 40歳に達する日の属する年度
- 40歳に達する日の翌日から1年間
雇用環境の整備では、次の措置のうち少なくとも1つを実施する必要があります。
- 介護休業・介護両立支援制度等に関する研修
- 相談体制の整備
- 自社の制度利用事例の収集・提供
- 制度利用促進に関する方針の周知
全社員向けのメールや掲示は、制度と相談先を知らせる入口として有効です。ただし、一斉配信や社内ポータルへの掲載だけで、個別周知・意向確認や40歳時点の情報提供を済ませたと判断しないでください。
周知前チェックリスト:規程・資料・担当者をそろえる
周知を先行させると、資料と規程の説明が食い違ったり、相談を受けても担当者につながらなかったりするおそれがあります。まず、人事・総務を中心に次の項目を確認します。
- 就業規則・育児介護休業規程が、適用される改正事項に対応している
- 法定制度と会社独自の制度を区別して記載している
- 資料ごとに申出先・連絡先・申請手順が食い違っていない
- 個別周知・意向確認の資料と実施方法を用意している
- 40歳時点の情報提供について、対象者の抽出方法と実施時期を決めている
- 雇用環境整備として実施する措置を決めている
- 主担当者と、不在時の代替担当者を決めている
- 管理職が相談を受けた際の引継ぎ先を把握している
- 制度利用に関する不利益取扱いやハラスメントを防ぐ方針を確認している
- 相談情報の保管場所と閲覧できる担当者を決めている
資料では、「法令上の義務」「会社独自の制度」「運用上の推奨施策」を分けて表示しましょう。例えば、対応漏れを防ぐための実施記録や代替担当者の設定は、本稿では推奨実務として紹介しています。
介護休業給付金は、休業すれば必ず受給できるものではありません。雇用保険上の要件等があることを明記し、受給可否や申請についてはハローワークなどの確認先を案内します。全社員向け資料に、未確認の給付額や条件を転記しないことも重要です。
実施手順:担当部門と年間業務に組み込む
専任の人事担当者がいない会社でも、担当者の記憶に頼らない運用はつくれます。次の順番で、既存の人事業務や定例会議に組み込みましょう。
| 手順 | 主担当の例 | 実施内容 |
|---|---|---|
| 1.規程と資料を照合する | 人事・労務、経営者 | 最新の行政資料と自社規程を確認し、必要な改定・承認手続きを進める |
| 2.対象者と時期を決める | 人事・総務 | 40歳時点の情報提供対象者を抽出し、法定期間内の実施日を設定する |
| 3.全社員へ入口を案内する | 人事・総務 | 制度資料の場所と相談先を、メール・掲示・朝礼などで知らせる |
| 4.管理職へ対応を説明する | 人事・労務 | 相談の受け止め方、引継ぎ先、共有してよい情報の範囲を伝える |
| 5.個別対応を実施する | 人事・労務 | 介護に直面した旨の申出を受け、個別周知と利用意向の確認を行う |
| 6.実施状況を点検する | 人事・総務、経営者 | 対象者への対応漏れ、資料の更新漏れ、相談体制の課題を確認する |
兼務の場合は、部門を増やす必要はありません。各手順の担当者、代替担当者、確認する責任者を明確にすることを優先してください。
個別周知・意向確認や40歳時点の情報提供は、それぞれ法令で認められた方法で実施します。電子メール等を使う場合は、本人の希望などの条件が対応ごとに異なるため、最新の行政資料で確認しましょう。
実施記録には、対象者、実施日、方法、使用資料の版、意向確認の結果などを必要な範囲で残します。法定対応の実施記録と、家族の病状などの詳しい相談記録は分け、閲覧権限を限定してください。
社内周知の文例と、管理職が相談を受けたときの対応
全社員向けの案内は、制度の細部を詰め込むよりも、**「制度を使うか決まっていなくても相談できる」「どこに連絡すればよいか」**が伝わる内容にします。
全社員向け案内の文例
件名:仕事と介護の両立に関する制度・相談窓口のご案内
ご家族の介護と仕事の両立について、社内で相談できます。介護休業、介護休暇、勤務時間に関する制度などをご案内します。
介護に直面した方には、制度の個別案内と利用意向の確認を行います。利用する制度が決まっていない段階でも、ご相談ください。
相談先:[担当部署・担当者・連絡先]
制度資料:[社内資料の保存先]上司への直接相談が難しい場合は、上記窓口へご連絡ください。相談内容は、対応に必要な範囲で取り扱います。
この文例は入口の案内です。法定の個別周知や40歳時点の情報提供には、必要事項を満たす資料を別途用意してください。社内メールを使わない従業員には、書面や掲示など、届く手段を組み合わせます。
管理職向けの説明は、次の4点を基本にします。
- 本人の話を聞き、仕事上の困りごとを確認する
- 「辞めるしかない」「忙しいから休めない」などと決めつけない
- 制度の対象可否をその場で判断せず、人事・総務へつなぐ
- 業務調整に必要な情報と、家族の病状などの私的情報を分ける
声かけは、「今の仕事で困っていることと、会社に相談したいことを教えてください。制度は担当者からご案内します」といった内容で十分です。
管理職の役割は、介護の専門家になることではなく、相談を受け止め、適切な窓口につなぐことです。本人の共有希望を確認したうえで、必要な情報を担当者に引き継ぎます。
周知後チェックリスト:配信件数ではなく実施状況を確認する
メールを送った件数だけでは、必要な対応ができているかは分かりません。人事・総務が実施状況を確認し、経営者には個人を特定しない形で課題と改善案を報告しましょう。
| 確認指標 | 確認する内容 |
|---|---|
| 40歳時点の情報提供の実施状況 | 対象者数、実施済み人数、未実施者と期限 |
| 個別周知・意向確認の実施状況 | 介護の申出を受けた人への実施漏れ、引継ぎの停滞 |
| 雇用環境整備の実施状況 | 選択した措置を実施し、利用できる状態になっているか |
| 相談先の認知状況 | 従業員が窓口を知っているか、資料にアクセスできるか |
| 管理職の対応状況 | 相談先と基本的な引継ぎ手順を説明できるか |
| 資料の整合性 | 規程・案内資料・申請書の内容や版がそろっているか |
あわせて、次の点を確認します。
- 休職中・出向中などの従業員について、対象と情報提供方法を確認している
- 個別周知だけでなく、利用意向の確認も行っている
- 制度利用を控えさせる説明や回答の誘導をしていない
- 相談情報が、必要のない部署や会議に共有されていない
- 法改正や社内制度の変更時に、資料をまとめて更新できる
相談件数や制度利用件数が少ないことだけで、支援が十分とは判断できません。窓口が知られていない、上司に話しにくい、資料を見つけられない可能性もあります。
匿名アンケートを行う場合は、家族の介護状況を詳しく尋ねるより、「相談先を知っているか」「制度資料を確認できるか」を聞くと、周知の改善につなげやすくなります。
FAQ
Q1.従業員の少ない会社でも、対応は必要ですか?
本稿で扱う介護分野の義務は、企業規模が小さいことだけを理由に対応不要とはできません。専任担当者がいない場合は、兼務でも主担当と代替担当を決めましょう。対象者や制度ごとの適用条件は、最新の行政資料で確認してください。
Q2.介護の相談を受けましたが、本人は休業を希望していません。どう対応しますか?
休業を希望していないことと、法定の個別周知・意向確認が不要であることは別です。介護に直面した旨の申出に当たる場合は、必要な案内と意向確認を行います。そのうえで、本人の希望に応じて勤務時間や業務上の困りごとを整理し、利用可能な制度を確認してください。
Q3.介護している従業員を把握するために、全員へ家族の病状を聞く必要はありますか?
本稿で扱う周知義務への対応として、全員から家族の病状を詳しく集める必要はありません。全社員には制度と相談先を知らせ、相談を受けた際に対応上必要な情報を確認します。収集する情報は目的に照らして必要な範囲に絞り、共有先も限定しましょう。
まとめ
育児・介護休業法の改正を社内に伝えるときは、一斉周知、個別周知・意向確認、40歳時点の情報提供、雇用環境整備を分けて管理することが基本です。
まずは、次の順番で着手しましょう。
- 最新の行政資料と自社規程を照合する
- 対象者・実施時期・担当者を決める
- 周知資料と相談の引継ぎ手順を用意する
- 実施記録をもとに対応漏れを点検する
法令上必要な対応を確実に実施したうえで、従業員が制度利用を決める前から相談できる職場をつくることが大切です。
公開・運用前の確認には、厚生労働省の最新の改正資料、様式、Q&A等を活用してください。自社への適用判断に迷う場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)などへ確認しましょう。
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